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2010/08/07
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Blue作「"みどり"の日々」
marhollo作「恋の行方」
りきお作「女王猫の密かな恋のうた」
Rodmate作「VIEW」

Он и Она

作:風御守氷霧(月雫)   絵:鈴木このり(鈴木弐番館)

 八月の初め。何をするにもこの暑さの中では億劫になる、そんな季節。
 恭介は就職して、他の皆は別の大学に行ってしまったけど、大丈夫かな? 特に葉留佳さんとか、この暑い中はしゃぎすぎてなければいいけど……。
 そういう僕たちは壁をひとつ挟んだ向こうの木で鳴くアブラゼミの声を聞きながら、空調の聞いた図書館で勉強をしていた。
 大学が長期休暇じゃなかったら、ここはいつも課題を終わらせようとする学生で混んでいる。だけど今は夏休みの真っ只中だから、両の手で数え切れるほどしか人がいない。うん、ちょっと静か過ぎる気もするけど、勉強ははかどる雰囲気かも。
「リキー」
「どうしたの、クド?」
「この文章が訳せません……」
「えっと、どれ?」
「これです」
「ああ、これは関係代名詞節の中に――」
 クドは難しい顔をして説明を聞き、僕はできるだけ解りやすいように説明する。クドのおかげで、英語はもう得意科目といっても過言ではないかも知れない。
 夏休みに入ってから、自然とこうしてクドと二人で勉強することが多くなった。情けないことに、僕がクドに教えることのできる教科は英語くらいしかなくて、逆に僕が彼女から勉強を教わることの方が多いんだけど。
 わふー、と唸りながら英語で書かれたレポートと睨めっこしている彼女を見ると――クドには悪いかも知れないけど――微笑ましく思ってしまうのは、高校時代から変わってないなあ。
 そんな些細なこともうれしくて、気付かれないように苦笑する。
「あっ、解りましたっ」
「よかったね」
「はい、リキのおかげです!」
 僕に向けられた、大好きなクドの笑顔を見る。
――チクリ
 どうしてかは分からない。でも気付けば次の瞬間、僕はクドを抱きしめていた。自分でも一瞬何が起こったのか理解できなかったけれど、薄手の夏服を通して感じた彼女の体温で、僕が彼女を抱きしめているんだということは分かったんだ。
「わふっ!?」
 なぜだか離す気になれない。だけどここは図書館で、人の目もあるから離さなきゃいけない。
 僕がそんな葛藤を心に抱いていると、抵抗するでも暴れるでもなく驚いていた彼女が、ゆっくりと手を僕の背中に回した。
 そのときに、やっと冷静さを取り戻した。周囲の視線は僕たちに釘付けで、彼女の顔は茹蛸のように真っ赤だ。
 クドを放すと、彼女もまた僕から手を離す。
「えっと、出ようか……」
「はい……」
 居た堪れなくなって、気持ち足早に立ち去る。
 さっきはどうしていきなりあんなことをしてしまったんだろう? 自問自答しながら、妙な空気になってしまった図書館の自動ドアをくぐった。



「こちらチョコレートパフェになります。ご注文の品は以上でしょうか?」
「はい」
「ではごゆっくりどうぞ」
 ウェイトレスが立ち去る後ろ姿を何の気なしに見ていると、円机を挟んだ向かい側からクドが「わふっ」と声を漏らしたのが聞こえた。
「どうしたの?」
「キーンって……あいはぶあへっどえいくですっ」
「あー、確かアイスクリーム頭痛だったよね」
「はい。咽頭神経の刺激を脳がこめかみの痛みと誤認知すると聞きました」
「そういえば僕たちのクラスでも、とある先生が講義でそんなことを言ってたかも」
 顔をしかめながら軽くこめかみを押さえる動作をするクドは、やっぱりどこか犬っぽい。
 そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいると、すっと目の前にスプーンが差し出された。
「リキも食べますか?」
「えっと、うん。じゃあ少しだけもらうね」
 ぱくっと食べてから、間接キスをしたことに気付いてちょっとだけ顔が火照ってきたけど、クドを見ると彼女もやはり気付いて赤面していた。そういったところも可愛いくて愛しくて、凄く幸せな気持ちになる。
 それから少しの間、僕たちは心地の良い沈黙に身を任せていた。

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Rodmate作
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