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2010/08/07
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Blue作「"みどり"の日々」
marhollo作「恋の行方」
りきお作「女王猫の密かな恋のうた」
Rodmate作「VIEW」

押し付けの友情をあなたに

作:翔菜(小さな翼)   絵:ハシクラオ(クラオッサン)



 それは、奇妙な光景だった。
 在校生が集った体育館。入学式。
 壇上に立つ少女が一人、ありきたりな言葉を述べている。
 新入生代表挨拶。
 成績優秀。
 容姿端麗。
 頭脳明晰。
 品行方正。
 生まれ持ったものなのか、育ちの過程で身に着けざるを得なかったのか、それは私には分からなかったけれど、たったひとつの行いだけでそれら全てを備えて居るのだろうと思わせる、堂々たる佇まい。声。一挙一動。
 それ故に、彼女はとても不思議で、彼女が作り出す空気は奇妙な光景を作り出す。
 これだけの物を揃えた人物というのは、中学高校であれば意外に居るものだ。
 そういう人物は先に進むにつれ凡人になる事もあるけれど、少なくとも、そうであれる間は必ず持っている物がある、と凡人たる私は思っている。
 それは、男女関わらず他人を惹きつける魅力、とでも言うべきものだ。
 我ながらアホらしい言い方だと思うが、纏うオーラ、だとかそういうやつが違うのだろう。反発する者もあるだろうが、それもまた、その魅力ゆえに起こる軋轢でしかない。
 他人を惹きつける魅力があると言っても、聖人君子でもなければ完璧超人でもないのだから、反発がないとしたらそれは漫画か小説かゲームの世界のお話になる。

 さておいて。

 壇上に立つ新入生――二木佳奈多は。
 ……その魅力を、持たないほうがおかしいだけの素養を揃えていながら。持っているべき、そんな魅力を、一切持っていなかった。或いはそんな自分自身を忌み、自ら手放したのか。
 いずれにせよ、そんな事は他人でしかなく、加えて、やはり凡人である私には知る由もなかったのだけれど。

 ただひとつ、確かなのは。――私は。
 理由などわからないまま、彼女の、そんなところに惹かれていたと言う事。



*  *  *

 桜の散り始めた、放課後の学内を歩く。
 春だけれど、風はまだ冷たい。地球と言うのはなかなかに気まぐれな奴のようで、つい少し前――丁度、入学式で初々しい新入生を見た頃は暖かかったのが、今は夜間であれば手袋やマフラーが欲しい程の気候になっている。
 この時間帯でも、ブレザーを脱ぐ気にはなれない。
 そんな空気の中で、身体を温めるのも兼ねて早歩きで進む。目的地は、剣道場だ。
 あれから……暖かかった入学式の頃からしばらく。
 私は、壇上に立った彼女が気になったからと言って何をするでもなかった。する必要性もないし。けれど、新入生代表ともなればいくらか噂話は流れるもので、この二週間ほど、私は自分から詮索する事こそなかれ、それに耳を傾けてはみたのだった。
 曰く、中学時に剣道の全国大会で優秀な成績を修めただとか。
 曰く、そこそこに有名な家の娘さんだとか。
 後者は、偶然校舎で見かけた時などの立ち居振る舞いからでも、ある程度予想できていた事。
 だが、もし前者が事実だとすれば相当な脅威だと思う。
 壇上に立つ彼女から受けた印象に加えて、武の道でも抜きん出ている、つまりは、文武両道。
 成績も良くて運動も水準以上に出来て――までであれば意外と珍しくないけれど、その両方をかなりのハイレベルでこなしてしまう人間は、実際のところかなり少ないだろう。
 かく言う私も努力した分に見合った程度の成績は残せているつもりだし、運動も競技種目になれば得手不得手はあるが、基本的な体力や運動神経は、まあそれなりにある方ではないかと自負している。
 今こうして足を動かしているのは、惹かれた事よりも、単にその腕がどれほどなのか、素人目であっても見てみたいという、好奇心が先んじての事だ。

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