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2010/08/07
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Blue作「"みどり"の日々」
marhollo作「恋の行方」
りきお作「女王猫の密かな恋のうた」
Rodmate作「VIEW」

キッズ・リターン

作:鈴木このり(鈴木弐番館)   絵:れもたろ(鈴木弐番館)

「謙吾、今年の夏は帰ってこないの?」
 夏休みに入って二日目の晩、お袋から携帯に連絡があった。寮の自室に戻ってきたばかりだった俺は、その珍しい着信に驚きながら部屋のベッドに腰掛けた。
「練習が忙しいから、今のところは予定ない」
 稜線にかかる夕日が、男一人の潤いの無い室内を照らしている。しんと静まり返った部屋に、俺とひぐらしの声だけが響いた。
「せめて夏祭りの時くらい、帰ってきなさい」
「また、その話か」
 ここ数年俺が親父と気まずいことは察しているだろうに、お袋は何事も無かったかのように、何かと言うと帰省を促してくる。
 家庭を省みない親父と、家に寄り付かない息子。
 二人に背中を向けられて、だからこそお袋は都合の悪いことは見ないふりをして、自分を保ってるのかもしれない。
 結局俺が家を出ても、あの家は全然変わることはなかった。結局父親も母親もずっと俺に、跡取りとしての役割しか見ていない。
 ……じゃあ、俺は?
 親父に反発して家を出ただけで、この学園で何を変えるということも無く、もうすぐ二年目の夏休みが終わろうとしている。
「時間が空いたら、考えておく」
 俺はただ静かに言って、強引に電話を切った。そのまま机の上に電話を放り投げ、ベッドに後ろ向きに倒れ込む。
「このままじゃいられないってことくらい、分かっているけどな……」
 どいつもこいつも、なぜ大人はいつも先を急かすようなことばかり言うのだろう。
 机の上に置きっぱなしになったプリントに視線をやる。それは昼間、終業式の後に配られた進路希望調査票だった。
 俺の進路は、ほぼ固まっている。道場を継いで、より高みを目指して剣の道へ進むのだ。
 剣道は嫌いじゃない。強要されると辟易するけれど、続けられたのはやはりあの静謐さと鋭さに惹かれた部分もあったからだ。……ただ。
 ただもう少しだけ、親父の影響のないこの場所で、俺が俺としていられる時間に浸っていることは、許されないのだろうか。
 俺があの仲間と馬鹿騒ぎできる時間も、かけがえの無いものなのに。
 そこのところが、周囲の大人には分かってもらえない。俺はまだ、未来のことなど考えたくはなかった。

 その夜は熱帯夜だった。俺は電話が終わった後、ベッドに倒れ込んだまま、うとうとしてしまったらしい。
 目を開けて起き上がろうとすると、なぜか動き辛かった。

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