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2010/08/07
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Blue作「"みどり"の日々」
marhollo作「恋の行方」
りきお作「女王猫の密かな恋のうた」
Rodmate作「VIEW」

恋の行方

作:marlhollo(Cmajor)   絵:卯月たける(恵比寿屋本舗)



 渡り廊下から裏庭に出ると、真正面から塊のような強い風が飛んできて、鈴は思わず目を瞑った。枯れ草の匂いの混じった風は勢いよく吹きつけたが、咄嗟にスカートを抑えたところで弱まった。いきなりの仕打ちに鈴は心の中で舌打ちしつつ、目を開ける。開けた視界の先には見慣れたベンチがあって、その脇には男子生徒が佇んでいる。
 ――あぁ、やっぱり。
 鈴は思った。これから起こる出来事に予想が付いたようであった。
 登校してきて下駄箱を開けると、手紙があった。空色の便箋は、古ぼけた木製の下駄箱の中で輝くように爽やかであったが、鈴は少なからず気落ちした。その場で封を開けてみれば思った通りで、話したいことがあるから放課後裏庭に来てほしい、という内容のものだった。読み終えた時、鈴は胸の中に重苦しいしこりが出来るのを感じた。気持ちのいい秋晴れだったが、そんな清々しい朝が台無しだと思った。
 ここのところ、こういった手合いのものが何かと多くなっていた。そしてその全てが愛の告白だった。それぞれがあれこれと言葉を選んで愛を伝えてくるが、今のところ、鈴の心を波立たせた者はいない。恋愛に全く興味がないわけではないが、少なくとも、出会い頭に告白してくるような男になびくつもりなど毛頭なかった。
 ――めんどいことになったな。
 溜息を噛み殺して、鈴は男子生徒を見る。恐らく、彼も多分に漏れず、自分に好意を伝える気でいるのだろう。まるで祈るかのように顔を俯かせ、微動だにしない。自分が来るまであぁして待っているのだろうか、と鈴は考え、胸の中のしこりが一層膨らんだ気がした。鈴にはよくわからないが、告白とは大層勇気の必要なものだと聞く。彼もそれを振り絞って、自分なんかに手紙を寄こし、こうして待っているのだろう。そう思うと、億劫ではあったが、無視する気にはなれなかった。
 少し離れたところで暫く男子生徒の様子を窺っていたが、鈴は意を決して、足を踏み出した。むっつりとした顔を作って歩み寄る。話が出来る程度の距離まで来たところで、鈴が落ち葉を踏む。その音に、男子生徒がはっとしたように顔を上げた。
「棗さん、来てくれたんだ」
 男子生徒は顔を綻ばせた。弾けるような笑みには、どこかあどけなさが見え隠れしている。そういえば一年生だったか。鈴は、適当に読み流した手紙を思い返した。名前は覚えていなかった。
「何の用だ」
 無愛想な物言いになったことに、鈴は小さく顔を歪めた。これから断るつもりでいるのだから当然良い気はしていないが、だからといってそんな言い方をしなくてもいいだろうに、と自身を責める。こういった時、対人関係に酷く不器用な自分が恨めしかった。
 鈴の内心などわかるわけもなく、男子生徒は自分に対して苛立っていると思ったらしい。笑顔が凍りつき、落ち着きがなくなった。
「あの、実は、棗さんに言いたいことがありまして」
 おどおどしたまま、男子生徒は勢いよく頭を下げた。小毬ならもっと要領よく立ち回るだろうに、と考え込んでいた鈴は、突然の行動に目を丸くする。
「お、俺と付き合ってください」
 男子生徒がはっきり口にした言葉で、鈴は理解した。どうやら、予想通りの結果になったらしい。やはりいつもと同じかとうんざりする気持ちを胸に、鈴はいつもの答えを言う。
「すまん、お前とは付き合えない」
「そうですか。そうですよね、いえ、こうして来てくれただけでも嬉しいです」
 ありがとうございました、と男子生徒はまた深々と礼をした。いやこっちこそすまないと謝罪をすれば、全然気にしないでくださいと笑顔で言われた。
「それではこれで! 棗さん、本当にありがとうございました!」
 はきはきとした受け答えをした後、男子生徒は早々と走り去って行った。気持ちのいい青年であったが、随分あっさりしたものだ、と鈴は思う。これでもかとクサイセリフを吐かれるよりかは余程マシだったが、こうもあっさりしていると、告白に勇気が要るとかいう話は嘘かもしれないと鈴は考えるのであった。
 ――しかし。
 ここのところ本当に多い、と鈴は思う。異性からの告白は今までになかったわけではないが、近頃は多すぎる。何か目立った行動をしたつもりはないし、むしろ最近は大人しくしている方だと思う。
「何なんだ、全く」
 誰もいなくなった裏庭でひとりごちた時、また強めの風が吹いてきて、鈴は身を震わせた。昼間とはいえ、秋の風は冷たい。今度誰かに聞いてみようと思いつつ、縮こまるようにして校舎の中へと戻った。

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