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2010/08/07
作品サンプル追加
Blue作「"みどり"の日々」
marhollo作「恋の行方」
りきお作「女王猫の密かな恋のうた」
Rodmate作「VIEW」
sustain hands
作:しま(ふらんき〜) 絵:透音(タメイキクローバー)
「お待たせしましたわ」
別れてからほぼ三十分という正確さで、佐々美さんは喫茶店に現れた。
ウェイトレスさんに飲み物を注文してから、向かいの席に座る。
「佐々美さんが宣言した時間より待ってないよ」
「それは何よりです。それより、先ほどはあの子たちが申し訳ないことをしましたわ」
佐々美さんが頭を下げる。
「大丈夫だよ、僕は気にしてないから」
「ですが……」
「あの子たちからしてみたら、僕は佐々美さんを攫った悪者みたいなものだしね」
「さ、さささ攫うとか何を仰ってますの!」
あ、顔が真っ赤だ。
佐々美さんはこういうところが可愛いと思う。
「いやでもある意味本当のことだし、時間をかけるしかないかな、とは思うよ。……中村さんだけなんでか好意的だけど」
ぴく、と佐々美さんの眉が動いた。
「あの子は、その、別の理由がありまして」
「別の?」
「な、ななななんでもありませんわ! 気にしないでくださいまし!」
「ええ……すごく気になるんだけど」
「気にするな、と言っているのですわ!」
「すいません……」
恐ろしいまでの迫力に思わず謝ってしまう。
よく解らないけど中村さんの話は禁句のようだ。
これからは気をつけよう。
「……こほん。由香里のことはともかく、令と咲子はもう少し態度を軟らかくして欲しいのですけど」
初めて佐々美さんからあの子たちの名前を聞いた気がする。いつもあの子とかあの子たちとかしか言わないからなんだか新鮮だった。
尤も、中村さん以外は苗字がわからないんだけど。
「さっきもいったけど時間掛けるしかないんじゃないかなぁ。いきなり好きになってくれるとは思えないし」
「難しいですわね……令はともかく、咲子は気性が激しい部分がありますから」
「激しいんですか」
ということは、いつもキッと睨んでくる方が咲子さんなのか。一応覚えておこう。
彼女を名前で呼ぶ日が来るのかは知らないけど。
「ナイフで刺されないように後ろには気をつけてくださいまし。……流石に冗談ですけれど」
「あははは」
笑えない。それ笑えないよ佐々美さん。
僕の背筋を冷たいものが駆け抜けていくのがわかった。
「お待たせいたしました、アイスレモンティーでございます。ご注文の品は以上でおそろいでしょうか」
「ありがとうございます、大丈夫ですわ」
まるで図ったかのように現れたウェイトレスさんに救われる。
正直、あと何秒かあの空気が続いていたら本当に笑えない事態になっていた気がする。
「そ、それよりもさ、これからどうしようか。どうせなら映画とかいいかな、と思うんだけど」
ちょっと強引に話を変える。
これ以上あの三人の話題を続けない方がいいし、何より佐々美さんに暗い表情は似合わない。
……別に怖くなった訳じゃないんだ、うん。
「今だとどんな作品が上映してましたかしら」
「えぇと、子供向けのヒーローものとか、刑事ドラマの劇場版第三作とか、あとはホラー系とかだったと思うけど」
「ほ、ホラー……ですの?」
「うん、なんか凄いらしいよ。ゾンビ系の話みたいだけど、もう体の腐り方がすごいリアルだし、三百六十度どころか上下含めてどこから襲ってくるか分からない恐怖とか、すごい完成度みたい」
「そ、そうですの……それは凄いですわね……」
ホラーが苦手なのかそれとも僕の熱弁のせいなのか、佐々美さんは明らかに引いていた。
「あれ、ホラー嫌いだった?」
「そ、そういう訳ではありませんけれど。私は刑事ドラマの方がき、気になりますわね」
取り繕ってはいたけれど、絶対嘘だ。
今度こっそりDVDとか借りてきて確認することにしよう。もしかしなくても、その時は新しい佐々美さんを発見できるに違いない。
今度の週末の楽しみが一つ増えた。
「あ、うん、そっちはね……」
それはそれとして、僕は刑事ドラマの方の説明を始める。十年ほど前にTVドラマとして放映されていた作品で、当時から絶大な人気を誇っていた所轄の刑事と、本庁のエリート刑事の物語。
佐々美さんも名前は知っていたらしく、じゃあそれを見に行こう、ということで話はまとまった。